小善は大悪に似たり。大善は非情に似たり。

京セラの稲盛和夫さんの書籍に出てきますが、小善は大悪に似たり。大善は非情に似たり。という言葉があります。

この言葉は「小さな善行は相手の事を思いやった事であっても、結果として人を傷付けたり、その人をダメにする可能性があるという事。それに対して本当に相手の事を心から思うのであれば、厳しい言葉や叱責、時に非情と思われるような行動が必要である。」という意味です。

人間関係の基本は、愛情をもって接することにあります。しかし、それは盲目の愛であったり、溺愛であってはなりません。上司と部下の関係でも、信念もなく部下に迎合する上司は、一見愛情深いように見えますが、結果として部下をダメにしていきます。これを小善といいます。「小善は大悪に似たり」と言われますが、表面的な愛情は相手を不幸にします。逆に信念をもって厳しく指導する上司は、けむたいかもしれませんが、長い目で見れば部下を大きく成長させることになります。これが大善です。真の愛情とは、どうあることが相手にとって本当に良いのかを厳しく見極めることなのです。稲盛和夫

https://www.kyocera.co.jp/inamori/philosophy/words49.html

別の諺でも似たような事が言われます。「獅子は我が子を千尋(せんじん)の谷に突き落とす。」「かわいい子には旅をさせよ」とも。

それで大丈夫なのか?と周囲が思う事でも、結果として本人の人生を考えるなら厳しく接しないといけない時がある。子育てでも甘やかすのではなく、時に厳しい躾を行い、長い目で見るとその子の将来を想った行動は心を鬼にしないといけない事があります。

企業経営で言うと「(何事にも)良いよ。良いよ。」と言う優しい社長や上司は会社を潰します。結果が出ずとも、簡単に給料を上げたり、結果が出ない理由に寄り添いすぎたり、厳しい事を言わずになんでも肯定する上司や社長は、本当に会社やその人の将来を想っているでしょうか?

本当に相手を想うのであれば、厳しい状況下では経費削減を徹底したり、会社やその人の事を本当に想うのであれば毅然とした態度で厳しい事を言うべきです。誰かが嫌な役を行い厳しい指導をしないと、一定年齢を超えると固まってしまって手遅れになったりもします。

厳しい事を言って嫌われる事を恐れたり、お茶を濁したりする人は、結局チームを勝ちに導けません。その人やチームにとって結果が出なければやはり厳しいのです。

時間をかければ育つという意見も分かりますが、そこまで余裕のある会社や上司は少なく、一般的には一定期間しか持たされていません。その中で成長を見込み結果を出すなら、小善を行っている場合では無いはず。

どんな人でも過去を振り返ると、本当に自分の事を想って叱ってくれた人の言葉は残っているはずです。勿論、感情だけで怒ってきた人の事も覚えていたりしますが、多くの人はそこまで鈍くはないので、本当に自分の事やチームの事を考えて厳しい事を言っているのか感じています。

人は嫌われたくはありません。しかし、全員に好かれようとする人もまた、人からの信頼は得られません。本当の信頼を得るには、関わる人全員の幸せを考えるからこそ「厳しい事を行える」「厳しい事を言える」人だと考えます。

かの有名なIBMの社是には「社員を大事にする」という一文があるそうで、アメリカの会社には珍しく日本の会社の様に長く勤める人が多いのが特徴的だそうで下記の様な例え話を社是に載せているそうな。

ある北国の湖畔に、心優しき老人が住んでいました。 湖には毎年、雁(がん)の群れが飛んできて冬を過ごします。優しい老人はいつとなしに、湖に集まる雁にエサを与えるようになりました。雁は水辺に寄ってきては老人がくれるくれるエサを喜んで食べていました。 来る年も来る年も老人はエサをやり続け、雁もその老人からもらうエサを越冬する糧とするようになりました。ある年もまた、雁の群れがその湖にやってきました。 いつものようにエサをもらいに水辺に寄ってきますが、老人はいつまでたっても現われません。毎日、水辺に寄って行っては待ち続けるのですが、やはり老人は現われません。老人は、すでに亡くなっていたのです。 その年、寒波が襲来し、湖が凍結してしまいました。 老人が現われるのをひたすら待ち続け、自分でエサを捕ることを忘れてしまった雁たちは、やがて皆餓死してしまったのです。  

この様な例え話があった上で、IBMではこの様な人材を育てません。と書いているそうです。

自分で餌を取れる人材を育てるという事。それこそが社員を大事にするという事だと定義付けているのが流石だなぁと。

僕も福沢諭吉さんの名著「学問のすすめ」から引用して「一身独立して、一国独立する」の言葉を会社でもよく伝えています。社員それぞれが本当の意味でスキルも精神も自立する事が、その人の人生を豊かにし、会社を強くし、顧客や地域への貢献になると信じています。

目先の小善で自分や相手を満たし、未来の過ちを招く人にはならない様にもっと意識しなければ。

自戒の念を込めて。


株式会社エックスラボ代表取締役 / 起業家団体EO大阪 第11期会長 / 情報経営イノベーション専門職大学 客員教授。 大阪発のマーケティング会社として、様々なクライアント企業の課題解決に日々取り組んでいます。

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